京都駅を出て、大阪駅で一旦下車して土産物を買った(神戸プリン)。
どうしても京都で飲んだ生ビールの味が忘れられず、やっぱりプレミアムモルツやろ!というノリで大阪駅前のキヨスクでビール購入。
ぐびっと飲み干すとさらさらっとした喉ごしで体に染み渡る。
「命の水だ。」
この時はその後に起こる悲劇の事を知る由はなかった。
少しほろ酔い気分で姫路行きの電車に乗り込む。
姫路までは一時間ちょい。
この日はお祭りがあったのか、法被を着た人たちが駅を埋め尽くしていた。
幸いそれほど混むことはなく姫路駅へ到着。
姫路駅から姫新線へ乗り換える。
岡山駅までは鈍行で一時間半。
新幹線ならばなんと19分なのだが、このときは懐にそれほど余裕が無かった。
津山駅まで青春18切符で乗れる最短距離は姫新線だ。
迷わず姫新線上月行きの電車に乗り込む。
この時、旅の疲れと電車の良い具合のゴトゴト感でかなり酔っていたのだろう。
もう少し頭がすっきりしていれば間違いはしなかった。
辺りはもう真っ暗だ。初秋とはいえ夜は冷える。
ましてや山間部を通るので下車したら寒いだろうなぁ、とうっすらと考えていた。
姫新線はそんなに人口の多い地域を通らないので乗客はまばらだ。
佐用駅というところで残っていたほとんどの乗客は降り、乗っているのはぼく一人になってしまった。
何かおかしい・・・
・・・
昔話なら鬼か山姥が出てくるところだが、時は現代。
捕って喰われることは無いけど終電はコワイ。
勝手知ったる場所ならそんなに不自由はないだろうけど、ここは兵庫県と岡山県の県境。
終着駅の上月駅で降りた。タクシー乗り場があればタクシーで移動もあり得たが、みじんもタクシーの姿は見えない。
無人駅なので駅員さんはいないし、さて困った。
※昼間の上月駅。
頼みのスマートフォンはバッテリー残量15%。まだ生きてる。
グーグル先生に聞いてみるとコンビニらしきもの近くにある。
そこまで行ってみよう。手がかりが掴めるかもしれない。
歩くこと約30分。
星空が煌めく夜空の下、国道わきのあぜ道で「ごそごそっ」と大きい物音がした。
息を潜ませて全神経を物音に集中させる。
鹿だ。そういえば畑には獣除けの柵が作られていて、この辺りの山深さを教えてくれる。
コンビニがあった。ヤマザキデイリーショップだ。
※写真と本文は関係ありません。
店内は煌々と照らされていてまるで天国だ。
バックパック姿が珍しかったのだろう、店員のおじさんが声を掛けてきた。
「歩きかい?」
午後9時30分。このコンビニの閉店時間は午後10時。
バスや電車は既に走ってない。残された交通手段はタクシーか歩きだ。
もしかしたら全国旅歩きとか、自転車で日本一周している人が訪れることがあるのかもしれない。
店員のおじさんは訳を知りたくてウズウズしている様子で(たぶん店番が退屈なのだろう)陽気に話しかけてくる。
それとも悲惨な状況に置かれている若者(若者といえる年なのかどうかは知らないが)が物珍しくてどんな奴なのか興味があるのだろうか?
聞けばこれから先の道は峠道で次の駅舎に着いても何も無いとのこと。
向こうへ渡ったら大変だよ~、とまるで三途の川の渡し船みたいな事を言うので少し怖くなった。
おじさんはきっと兵庫県民なのだろう。
「岡山側のことは分からない」としきりに語っている。
一駅戻ると「佐用駅」という少し大きい駅があって、その付近には24時間営業のコンビニがあるという。
まるでドラゴンクエストの村にいる長老みたいな気がしてきた。
ダンジョンの奥深くにあるという聖なる秘宝を探す旅、ではないが、
今日という日を乗り切るための貴重な情報だ。
タダだと何なのでパンを二つ買っておじさんに礼をする。
「ここから一時間くらい歩いたところかなぁ」
店員のおじさんは常連らしい店の客に聞いていた。
2キロ戻ってそこからさらに5キロ。田舎の一駅は長い。
くねくねと曲がりくねった道を行く。
途中、自動精米機があって「囲いがあるので夜露を凌げそうだなぁ、ここで一晩過ごそうか」と思いつつもあまりに寂しすぎて死んでしまいそうだったので止めておいた。
※写真は昼間の佐用駅。
午後11時。
佐用(さよ)駅到着。佐用(さよ)駅は姫新線と鳥取方面に向かう智頭急行の連絡駅だ。
ホームに向かい、コンビニで買ってきたサラダを食べる。
すると、ちょうど最終電車(もちろん佐用駅で終着。)がやって来た。
電車が止まり、乗客たちが全員降りて行ってしまった後、海老蔵似の駅員さんが「もう電車ないですよ。」と親切に教えてくれた。
「始発まで待って乗って帰ろうと思うんです。」と言うと、
「下に休むところありますよ。」と親切に教えてくれた。
そういえばクッション付きの座席があったな、と思い、
「ありがとうございます。」と言うと駅員さんは仕事に戻っていった。
地下へ降りる階段を下ると、おばあちゃんが好みそうな柄のクッションが敷いてある座席が。
外気が多少入り込んでくるけど、風除けがあるし寝心地は良いので今晩の宿はここにするか。
そうと決めたら、旅の疲れからか途端に眠くなってきた。
横になって少し休む。
上の方で汽車を休憩させる音がする。
汽車だって休まないと壊れてしまう。
休まないで働き続けられると思う方が間違いだ。
コツコツと階段を下りる音が聞こえてきた。
さっきの駅員さんだ。
「ここは寒いから上の方が温かいですよ。」
待合室のようなところがあってそこは暖房が効いているというのだ。
何てありがたいんだ!
感動して「ありがとうございます。」と言うとにっこりと微笑んで駅員さんは上の方へ登っていった。
眠い目を擦りながら、上の待合室へと移動する。
ドアを開けると、柔らかな温かい空気が流れてくる。
蚊が入ってくるといけないので戸閉まりをきっちりして、座席に横になる。
背中いてぇ・・・
プラスチックの固い椅子はどうやら横になるには不向きのようだ。
午前0時。
仕方ないので朝まで起きていようか・・・。
大阪から京都までの旅の記憶を辿りながら、ブログにどのようにまとめようか、と思案する。
「なるようになるか・・・」
心地よい旅の疲れと優しい心遣いに接した安堵からか、ゆっくりと眠りに落ちた。
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